僕も8年前にAKB48を立ち上げたときは、「秋葉原でアイドルなんて
絶対ムリだ」と言われた。だが、不思議と「ムリ」という言葉が面白く
感じた。無理=誰もやっていないぞ、空いているぞと。
僕もこれまでに何度も失敗した。大事なのは、間違えない力ではなく、
戻ってくる力だ。最初から正しい道を行ける人はいない。
間違えてもいいからやってみる。失敗したら、「イタタタ」と言って戻って
くればいい。失敗することで、使っていなかった筋肉が使われる。
そのことに意味がある。失敗を恐れず、とにかくやってみる。
その一歩目こそが大事なのだ。
AKB48については、「時代を先読みしたんですね」などと言われる。
そんなことはまったく予想できなかった。ヒットというものを相手に
ずっと仕事をしてきたが、視聴率20%も100万枚のCDの売り上げ
も自分では目に見えない。でも、小さな劇団にファンがついてチケット
が買えない、どんどん上演する劇場が大きくなる……そんな目に
見えるように大きくなっていく感じがいいなと思った。
AKB48も最初はお客さんも入らず赤字だったが、何かが始まる
というエネルギーと生命力にはあふれていた。
もしあの時、専門家を呼んでマーケティングをして、その分析に従って
いたら絶対にAKB48の成功はなかった。
成功パターンを踏襲したって絶対に次の成功はない。
「人の行く裏に道あり花の山」なのだ。
ムリをしろ、ムリを超えろ、というのは、何も奇をてらって無鉄砲なこと
をやれ、ということではない。
何かをやろうとするときに「ムリだな」と思う、自分のブレーキ装置
を外せということ。そのために一番必要なのは、自信だと思う。
AKB48は世界的に見たら、ダンスのレベルや歌唱力ははるかに
落ちる。でもニューヨーク公演でも、最初は白けていた客が、彼女
たちが懸命に踊り歌う姿を見て、最後にはスタンディングオべーション
になった。もし、ブロードウェーの真似から始めていたらそうはなら
なかっただろう。欧米の真似をしなければ通用しないと、日本人が
ずっと思ってきたことこそが余計だった。
いま世界に日本が見せるべきことは、一生懸命で勤勉な姿だ。
そのことに自信をもっと持っていい。
AERA 2014.1.13号
秋元 康 「 僕が今、思うこと 」より