事前対策と事後対策

ある安全のセミナーで聞いた2人の消防士の話です。

A街では秋にあちこちで落ち葉の山が築かれていました。

1人の消防士は、火事に備えて車のエンジンをかけ常時出勤に

備えていました。火事が起こると一番先に飛んでいって落ち葉に

水をかけて火事を消します。この消火活動を見ていたA街の人は

「なんて仕事をよくする消防士なんだろう」と噂をしました。

もう一方のB街の消防士は火事で出動する準備の代わりに、

落ち葉を集めて別の場所で処分して火事が起きないようにして

いました。この行動をを見ていたB街の人は「暇なんですね」と

声をかけたそうです。

現実でも消防士の消火活動は全体の25%以下で、その残りの

ほとんどの仕事が防火活動の仕事だそうです。いかに上手に

火事を消しても、すでに燃えてしまったものは元には戻りません。

それよりは、あらかじめ火事を予防した方がずっと簡単です。

さらに、実際の火事が起きた場合、焼けた家を元に戻すには、

莫大な費用と手間がかかります。また、失われた物の中には

昔の写真のように二度と手に入らない物もあります。

事前対策はまだ事象が起きていない時に活動しなければなら

ないので、どのようなことが問題になるのか、どのように対処

したらもっとも効果があるのか、といった分析に十分な経験と

能力が必要です。航空界ではピートと呼ばれる分析手法など

の様々な手法や、その手法を実際に適用するためのツールが

使われています。正しく運用されれば、事前対策の方がはるかに

少ない費用と資源で十分な成果が上げられます。

ぜひ、あなたの仕事にも事前対策の概念を導入して考えてみて

ください。

坂井 優基 著 「パイロットが空から学んだ一番大切なこと」 より

坂井 優基 ( さかい・ゆうき )

現役機長。747機長として世界38カ国以上をフライトする。

飛行時間は1万数千時間。指導機長として多くの機長、副操縦士

を育て、安全を主テーマに多くの著作がある。

趣味は旅行と読書。好きな音楽はクラッシク、ジャズ。

ステイ先でジャズライブを聴きにいくのを楽しみにしている。

一番好きな時間は、パリのカフェでカフェオレを飲みながら本

を読んでいるとき。