イチローは渡米前のオリックス時代から、バットは、ミズノの
久保田五十一(くぼた・いそかず)氏が制作したものを使っている。
久保田は2003年に厚生労働省の「現代の名工」に選ばれ、
2005年には「黄綬褒章」を受賞した。
彼は、松井秀樹、落合博満、原辰徳など、これまで1500人以上
の名プレイヤーのバットを手がけてきた、まさにバット作りの名人だ。
イチローのバットの材質はアイダモという木で、その中でも比重が
大きいものだ。
久保田は言う。「バットの扱いは一流と若手では、その差は歴然
ですね。トップクラスの選手ほど、バットがあるから野球ができる、
そんな感謝の念をお持ちです」
イチローはあるインタビューで、こう言っている。
「自分が野球をしていくうえで、いったい何本のアイダモが死んで
いくのだろう。その木に報いるためにも、いい結果を出し、ファンに
喜んでもらう。それが木に対する感謝の気持ちなんだと思います」
メジャー移籍後、三振を喫した悔しさを抑えられず、一度だけバット
を地面に叩きつけたことがある。彼はこの行為を恥じ、久保田に
詫びの手紙を書いた。
1959年、美津濃(株)養老工場に入社して以来、木製バット作りに
携わってきた久保田だが、バットを粗末に扱った行為を詫びる手紙
をくれたのは「イチローさんだけ」だという。