才能と努力の関係

わたしには二人の兄がいる。日本画家と作曲家である。

「芸術三兄妹」などといわれ、雑誌などに出ることもあるが、

そのようなインタビューのときに「才能がないと努力しても

無駄だろう」という話になる。

 

むろんどの道においても、その道に長けた人というのは

いるもので、また別の言い方をすれば、人はだれでも

なにかひとつには秀でているものである。好きこそ物の

上手なれ、というが「好きであること」が「才能」と結びついて

いるとわたしは信じる。

 

わたしは小さいころから「才能と努力は掛け算だ」ということ

を、数学者である父から言われて育った。

 

「その才能に 1 を掛けるか 10 を掛けるか……。どのくらい

努力するかによって才能の大きさも変わってしまう」

 

「自分のなかに秘められているに違いない才能の芽を育てる

努力ができるのは、自分だけなのである」と。

 

千住 真理子 著「生命が音になるとき」より

 

(せんじゅ・まりこ)ヴァイオリニスト。1962年生まれ。

12歳でプロデビュー。1977年、15歳の時、第46回日本

音楽コンクールを最年少で優勝した。1979年、17歳の

時、第26回パガニーニ国際コンクールに最年少で入賞

した(第4位)。

日本画家(千住 博・長男)と作曲家(千住 明・次男)は

実兄である。

 

使用楽器

愛器は1716年製のストラディヴァリウスで、この楽器を

所有している者は2014年現在、世界で4人しかいない。

「デュランティ」の愛称で知られる。ストラディヴァリが

製作されてすぐにローマ教皇クレメンス14世に献上

され、その後フランスのデュランティ家に約200年間

所蔵されていた。次いでこの楽器はスイスの富豪の

手に渡ったが、その約80年後の2002年にその富豪が

演奏家のみを対象に売りに出した為、千住家が数億

円で購入した。

「デュランティ」は、約300年間誰にも弾かれずに眠って

いた幻の名器とされている。この300年は、「城に隠され、

演奏家が弾くことはなかった」と2011年NHKの番組内

(イタリア特集)で明かされていた。