なんとなく変だと思ったら必ず確認しよう

前回に引き続き、現役機長・坂井 優基さんの話を紹介します。

 

先日、T機長と話がはずんだときにお互いに意見が一致したのは、

何となくの重要性という話でした。

 

プロがプロとして何十年過ごしていると、間違ったデータやおかしな

ことを見ると、何となくいつもと違う、何か変だという感覚が生じます。

 

このとき、もう一度振り返って前提条件のチェックやどこかにおかしな

ところがないか検証する必要が生じます。とくに最近はすべてのデータ

がコンピュータを使って打ち出されるために、一見整合性がとれている

ように見えてしまう危険性が大きくなっています。

 

何となくおかしいと思ってチェックすると、前提条件の入力ミスなど

思わぬ所に間違いを発見することがあります。だからこそ航空の世界

では飛行時間が尊重されるのだということに意見が一致しました。

 

ニューヨーク行きの便で最初に示されたフライトプランでいつもより

重量が大幅に軽かったことがあります。お客様の数はほぼ満席で

いつもどおりです。燃料の量もいつもとあまり大きな違いはあり

ません。後は貨物ですが、当時は景気もよく貨物もいつも重量

いっぱいに積まれていました。運行管理者が、今日は貨物が

少ないですという話をしてくれたのですが、あまりにいつもと違う

ので運行管理者に貨物部門に連絡して確認してもらいました。

しばらくして帰ってきた答えは、「すみません。キログラムとポンド

を間違えて計算していました」というものでした。出てきた新しい

重量はほぼいつもと同じ重量です。飛行機の場合、重量にあわ

せて離陸で使うエンジンの推力を決めます。実際より軽い重量

で離陸性能を計算した場合、滑走路から飛び上がれないことも

あります。

 

また、目的地まで飛ぶのに必要な燃料の量は、離陸のときの重量に

よって変わります。軽い重量で考えて、実際にはずっと重いと、途中で

燃料が足りなくなることも考えられます。国内線のように途中に空港が

ある場合は別ですが、太平洋の海の上では海に降りなくてはいけなく

なってしまうかもしれません。

 

各セクションではいろいろとマニュアルを定めて対策をとっています

が、それでも万に一つの間違いは起こります。そんなときに大事なの

は何となくいつもと違うという感覚と、その感覚をしっかりと相手に

伝えてもう一度確認してもらうことです。

 

何となく……のときにもう一度振り返ること、そのデータを出した相手に

もう一度確認してもらうことが極めて重要です。

 

坂井 優基 著 「パイロットが空から学んだ危機管理術」 より